2012年5月24日木曜日

あなたならどうする。

自動車を運転中にもよおしたんですよ。
すぐそばに大学校のような佇まいのパチンコ屋がありましてね、そこの厠を拝借することにしたんですよ。なんといってもあそこの厠はウォシュレットでもありますし。

いえいえ、さほど切羽詰まった按配ではありませんでしたから、脂汗も焦りもまったくなく、早春の川岸の如く涼しい顔をしていたと思います。
そんな時ってのは万事上手く運ぶもので、駐車場も空いてましてね、入り口に程近い所に停車することが出来ました。

車を降りて厠に向かいます。近いもんですよ。一分もかかりません。
まだ余裕充分だよ、と大人しい腹が無言で知らせてくれていますし、なんの不安もありませんでしたね。

厠に先客は居りませんでした。二つ有る個室のうち洋式は一つでしたから、そちらに入りましてね、ゆっくりとベルトを外して腰を落ち着かせました。
焦りなんてありませんよ。ええ全くです。落ち着いていましたから紙が有ることも確認しました。二つ有るロールは綺麗に三角折されていて、掃除して間もないことが解ります。なにか得したような、上手く事が運ぶ時の好循環、そんなものを感じつつ用を足すことができました。

先に洗浄ボタンを押して流します。続いてウォシュレットスイッチON。
ここのはTOTOのapricotというタイプです。そうです、水玉連射のものですね。暗い宇宙空間に浮かんだお尻のようなアプコットめがけ、宇宙船が水玉を連射するTVCMが印象的でした。
これがとても心地いい。数ある温水洗浄機能付き便器の中で一番好きですね。
ええ、もちろん水勢は最強でなくてはなりません。

パチンコで遊ぶでもなく、このapricotを気持ちよく使うことに小さな申し訳なさも感じますが、地域一番店を目指している店ですから、きっと許してくれると思います。

洗われてすっかり綺麗になり、ありがたい思いで洗浄STOPボタンを押しました。
ところがね、止まらないんですよ。水玉連射が。
あれれ、なんて思ってね、カチカチと何度も押すんですがね、どうにも止まらない水玉連射。
私が操作しているボタンは、壁に取り付けてあるリモコンのものでしたので、本体の操作部を探します。まあ、無いんですね。このapricotには無いと。なるほど。
ジジジジジジジジと水玉連射は続きます。

さて、どうしたものか。
とりあえず壁にかけてあるリモコンの停止ボタンをカチカチカチカチ押します。やっぱり止まりません。
大方リモコンの電池がないのだろうと思いましたので、リモコンを壁から取り外しましてね、まずは液晶画面を見たんですよ。そうしたらですね、薄いんですね、液晶表示が。微かに読める最強を表す水勢の表示。なるほど電池が消耗していることが伺えました。
となると、私がこの個室に入り、発射開始スイッチを押し、水勢を目一杯上げたのが、このリモコン最後の司令となったのだな、等と考えつつ、便器後部にあるリモコン受光部になるべく近づけてSTOPボタンを押しました。ジジジジジジジジジジジジジジ。水玉連射が元気です。

このようにいわゆる「おいしい状況」ですので、なにか写真を撮って「ウォシュレット止まりませんなう」などと投稿すれば小さな笑いくらいとれるかなとポケットを探りますが、無いんですね、携帯電話が。どうやら会社に置いてきたようです。
上手く事が運ぶ時は一旦立ち止まり、足元を怪しんでみることが肝要です。

そういえばウォシュレット等の便座には着座センサなるものがあり、人が座っていないと水は発射されないと聞き覚えている。ということは腰を上げれば止まるかと思い至り、腰を浮かせますが、いわゆるデリケートゾーン近辺と申しますか、つまりは蟻の戸渡りを刺激されただけで終わりました。

えてして弱った電池というものは刺激により息を吹き返すものであることを経験により学んでいますので、とりあえず、リモコンをバンバン叩いてみますが、止まりません。
最強の水玉連射により、そろそろ私のapricotの方が音を上げそうです。

弱った電池は温めると元気になるということを私は知っています。
元気は少しでいいのです「おい便器よ、STOPですよ。」と一言いわせるだけでいいのですから。
電池を取り出すべくリモコンを裏返し、極めて単純な電池蓋を開けようと試みますが、あの子の心のように開く気配はありません。もしかしたら何らかの呪文が要るタイプなのかも知れません。ジジジジジジジジジジジジ。私のapricot崩壊まで残された時間はあと僅か。

この状況下に於いて私に残された選択はただ一つ。
それは、決死の緊急脱出に挑むことを決心し、それを実行に移すこと。

慎重に脳内シミュレーションを繰り返します。
いかに濡れる面積を小さく便座の蓋を閉めるか。これに集中します。
私のapricotに向けての発射をやめない水玉連射からの脱出。
終わらない弾幕との決別。

作戦はひといきに終わらせなければなりません。
僅かな躊躇がさらなる犠牲を生むことになるものです。

時は満ちました。
多めのトイレットペーパーを左手に取り水玉連射を防御! と共に前方へ投げ出すように体を運び、同時に右手で便座蓋クローズ!!



私のapricot崩壊のカウントダウンは止まりました。
便座蓋の下から聞こえるくぐもったジジジジ音と、蓋の隙間から零れつつ床を濡らし続ける温水。
尻と言わず下着たちまでもそぼ濡らした水玉連射は、敵を見失った今も止まることなく撃ち続けられている。


愚かしい戦争の終結。
そこには勝者も敗者もなく、あるのは次に蓋を開けた者の驚きと濡れだけである。



お口直しとして爽やかなのか怪しげなのかわからない画像を御覧ください。

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